イノベーションは人間を不幸にするかもしれない。

 
【1970年代。高度成長期の真っ只中。日本人が働きバチと言われた時代】
うちの父親によれば、この時期、毎日帰りが遅く、終電で帰っていたそうだ。しかし、なぜそんなに遅くなるかというと、会社が終わって、仲間と麻雀をし、毎日あかちょうちんで一杯やっているからなのだとか。つまり、会社を出るのは定時なのである!
 
【2000年代。現代の僕ら】
自分の周りを見渡しても、同年代のサラリーマンで平日から酒飲んで遊んでいる奴はあまり見たことがない。9時10時近くまで仕事をしている人はザラ。この状況は、大学の研究者などになるともっとヒドくて、平日は12時、休日も仕事が普通である。
 
しかし、厚生労働省の発表している年間総実労働時間の推移を見ると、1970年代が2200時間、2000年代が1850時間、となっている、これは本当だろうか?中小企業を中心に、統計に表れないところで病魔が進行中のような気がする。実感として、現代人は非常に忙しいし、厳しい仕事を強いられていると思う。それは多くの人が感じていることではないだろうか?一人の仕事量は増えたし、知らなくちゃいけない事も増えた。これはなぜだろうか?以下のような記事を読みくらべると、おぼろげながら見えてくるものがある。
fromdusktildawnの日記 - プログラミングとは経営判断の集積である
FIFTH EDITION: 漫画というレッドオーシャン
Pastel Gamers Blog 〜Pasteltown Network Annex〜 量より質
私には、マンガ業界、テレビ業界、IT業界、研究者業界をはじめとして、日本全国の様々な労働現場でデスマーチ化が進んでいるように見える。デスマーチとは、ソフト開発現場などで過剰にヒドイ労働環境に陥ったプロジェクトを表す言葉だそうだ。詳しくは、ソフトウェア開発の落し穴-デスマーチを見てください。自分としては、日本全国の労働現場がデスマーチ化していると思っていて、その原因は「顧客の要求水準の高度化」だと思っている。そしてそれは、「イノベーション」が引き起こしているのではないかというふうに考えている。それはどういう事か?下に詳しく書いてみる。
 

  • 「顧客の要求水準の高度化」が「デスマーチ」を引き起こす。

現代の商品はどれも、顧客の要求水準にあわせ、非常に高いクオリティが要求されている。例えば、食品だったら「おいしい」というのはもちろんで、低価格にくわえ、安定供給ができる事も常識である。また、安全性であったり、廃棄物処理等の環境配慮であったり、はては個人情報の機密性の面などにも気をつけなければならない。完璧なものを作ろうとすると、それだけ高度なマネジメントが必要になる。当然、その負荷は労働者にかかる。クオリティが2倍になれば利益も2倍。であれば良いがそうはなってくれない。利益はほとんど変わらないので、人員は増やせない。限られた人数、限られた時間で膨大に増えた仕事をするのだから、当然デスマーチになるのである。
 

では、顧客の要求水準はどうして上がるのか。顧客ニーズに合わせようと各社が競争している環境であれば、顧客の要求水準は自然に増加していく。しかし、それを加速度的に高めている要因があると思う。イノベーションだ。今までは、道具や環境に制限があって、クオリティには限界があった。顧客もその程度のクオリティで当然と思っていた。しかし、その限界をイノベーションがやぶってしまい、顧客の要求水準を一気に高めてしまったのである。例えば、食品であれば、一昔前は、旬に合わせて供給量が増減するのは当たり前だったし、キュウリは曲がっていたり、多少、虫が食っているのが当たり前だった。しかし、そこにイノベーションが起こる。ハウスで栽培し、冬でも夏野菜を供給、キュウリもまっすぐが当たり前になる。一度、そういう物を目にしたら顧客はそれ以外買わなくなってしまう。これが、要求水準が劇的に高まった状態だ。イノベーションが顧客の要求水準を高め、結果として労働者の仕事量を増やしているのである。
 

さらに、イノベーションは違う方面からも労働者に影響を与えていると思う。例えば、今までは、ある決済をしてから、書類が届くまで4日かかった。現代では、イノベーションにより、これが電子データで10秒で届くようになったとする。昔は、4日の時間的余裕を持って書類処理の前準備をすれば良かったのが、現代では、10秒であたふたと次の仕事に取り掛からなくてはいけない。そんなシーンがいろいろな場面で見られないだろうか?これは、道具や環境が持っていたボトルネックが、イノベーションによって次々と打ち破られて、次第に人間の仕事速度がボトルネックになっているという事だと思う。ひらたく言えば、道具が進化しすぎたのだ。ビジネスユニットの中で見ると、情報や物流のスピードに比べて、人間が一番ドンくさい存在になってしまったのだと思う。
 
このような見方をすると、イノベーションは決して人間を幸せにはしないような気がする。いつの日かイノベーションで人間をロボットに置き換える日が来るまで、ボトルネックである我々には強い負荷がかかり続けることだろう。
 
 
P.S.
これはどうにかしないといけないなぁ。うむむ。
というわけで、幸せな会社を作りたいという前のエントリにも繋がるのです。幸せな会社を作りたい その2も書きました。