インドは憎めない国

聖なるガンガー(ガンジス川)

 
前回に続き、インド旅行記
 
インドに初めて行ったなら、一度は確実にだまされます。
というかこの国では日常的にだまされるのです。
 
旅行代理店はこちらがインドに不案内なのを良いことに通常の2倍以上の価格を提示してきますし、リクシャー親父に通常10ルピーのところを20ルピーだと言われたりする事は日常茶飯事です。いろいろ親切にしてくれて、あぁなんて良い人だぁ!と思ったら、最後にチップを請求されることもあります。しかも、彼らは少しも悪びれていないのです。
 
これらを見て「インド人は何でもカネカネ言う。この国は拝金主義だ」という人がいます。しかし、そうではないのではないかと私は思いました。ただの拝金主義だと考えると、いろんな事がツジツマが合わないような気がしたのです。
 
1)例えば、町中にいる牛や家畜。
本当の拝金主義なら、それらを捕まえて闇で売るほうが、ずっと手っ取り早いのではないでしょうか。少なくとも物乞いをやるほど飢えているなら、なぜ動物を食べないのか。宗教上の理由で牛は神聖だとしても、羊は一般的に食べています。これに手をつけないのはなぜか?
 
2)バラナシにいた灯篭売りの女の子。
この灯篭はガンジス川に祈りを込めて流すものなのですが、宗教儀式なのをいいことに女の子はボッタクリ料金を提示します。まあせっかくだから、と数個流したのですが、「もっと流せもっと流せ」としつこい。もういらないからと断り、料金を払う段になったのですが、細かい金がありません。すると、女の子は他で両替してくるから、その紙幣を私に渡せと言います。しばらく迷ったのですが、私はインドという国を試してみるつもりで、その紙幣を渡しました。どういう行動に出るかなと。結果は、女の子は戻ってきて、キチンとおつりを払ってくれました。ボッタクリはするけど、つり銭を掴んで逃げることはしない。インド人の行動原理を垣間見た気がしました。
 
3)非暴力主義
インドではケンカの際、頭と口で相手を言い負かします。暴力を使うことは、ご法度と考えられているようです。日常生活から非暴力主義が浸透しているのです。インド在住の日本人の話によると、インド人は、お金の事で人殺しをするようなことはほとんど無いとの事でした。
 
4)物乞い
インドでは物乞いが多くいます。駅などに行くと、物乞いが電車待ちをしている人を一人一人たずねて歩く姿が見れます。面白いことに、一度もらった人はキチンと記憶していて、二度バクシーシ(喜捨)を要求することはありません。頭いいじゃん(笑)物乞いのターゲットは、旅行者や身なりの良い金持ちばかりではありません。見ていると、普通のインド人のところにも要求して歩くし、またそういう人達が結構バクシーシに答えているのです。「物乞いのひとが何億人いるかしらないけどそれを養ってるインドは懐深いな」とあるサイトで読みましたが、まったくその通り、この国は実は慈悲深いのではと思いました。
 
5)あるリクシャー親父
インドでは3輪自転車の後ろに人を乗せるサイクルリクシャー(日本の人力車が語源)という乗り物がメジャーです。あるサイクルリクシャーに乗った時の話です。目的地までは30ルピーでOKという約束で乗り込むと、ペダルをこぎながら、しばらくして親父が何やら話しかけてきました。「私は貧乏人で赤ちゃんもいるのです。料金にどうかバクシーシを含んでくれませんか?」そしておもむろに私の足に触れ、その手を何度も自分の額にこすりつけているのです。まるで私を主人としてあがめるかのように。こう書くと、嫌な感じに聞こえるかもしれませんが、嫌味がなくにこやかに談笑しながらなので、「ご主人様、どうか一つ、お願いしまッス!お願いしま〜す!!」という感じです。確かに30ルピーじゃちょっと安かったかなと思う距離だったので、向こうが期待していた金額より少し多く払ってあげました。するとその親父、とても喜んで満面の笑みで感謝してくれたのです。ありがとうありがとうと、私をホテルの窓ごしに姿が見えなくなるまで見送ってくれました。
 
これらの事が、はじめ良く理解できませんでした。単なる拝金主義でなく、何か一貫した哲学があるように感じていました。ここまでで、なんとなく分かってきたのは、以下のことです。
 
・物の値段は相手によって違うのが当たり前という概念。
・だましたりだまされたりは悪いことではない。一種のゲームであるという感覚(参照)。
・だますと言っても、それは口八丁手八丁で相手を(しぶしぶ)納得させ契約させる事を言う。人の物を盗んだり奪い取るのは悪いこと。
・暴力は恥ずべき事。動物の殺生もあまり良くない事。
・持てる者から持たぬ者へ、慈悲と寛容によって金銭が動く事が期待されている社会構造。
 
日本の常識とはだいぶ違う面があります。なので私たち旅行者は、金がらみでインド人との衝突が絶えなかったり、その関係に戸惑ったりするのだと思います(参照)。でも中には、慈悲と寛容を見せて、物事をスムーズに運んでいる方(参照)、インド人並に交渉上手になって適応している方もいるようです(参照)。どちらもインドの常識に適応している例だと思います。何事も、郷に入れば郷に従えですね。
  
P.S.インドに1週間しか行っていなかった私の考察ですので、誤解や偏見が多いと思います。話半分で読んでくださいな。